火事を消した話と、実際の恐ろしさ

今回は予定を変更して「夜話」ジャンルの話を書きます。
Twitterでもなんでも、アニメ制作会社に起きた理不尽な火災のニュースほぼ一色なので、今回は実際の火事に遭遇して火を消した話を書こうかと思う。


今から10年前のある冬の午後、アパートのインターホンが何やら普通じゃない雰囲気でピンポンピンポンと鳴る。何事かと思って出てみると、

「上の住人です。火事を出しちゃったので今すぐ逃げて下さい!」

・・・は?・・・え?・・・火事だとちょっと待て!
実はこの日、ある用事があって自分も家族も在宅だった。出かける10分ほど前のことである。また、火事になれば寒い季節に二階に派手に放水されたら、一階の我々の部屋と生活は大変なダメージを受ける。

冗談じゃねぇ!

自分のペースを乱されるのが何より嫌いな自分は、この上の階の住人に聞いた。

わし「火事の様子は?」
二階の住人(以下、二階)「ま、まだボヤです!」

ボヤだと?

わし「消火器は?ここはあちこち設置されてるけど」
二階「つ、使い方がわかりません!」

は?なんやこいつ男か?男なら誰だって一度は学校の消火器をぶっ放してみたくて、防災訓練そっちのけで使い方は分かってるもんだろう?使った事なくても誰もがピストルの撃ち方を知っている気になる感じだろう?
・・・といった事を高速で考えていた。急いで一階の通路を確認すると、消火器は四つ設置してある。おそらく二階もだろう。一部屋程度のボヤなら消せなくはない。急いで二階に上がった。

わし「部屋はどこ?」
二階「入ってすぐ右の部屋です。暖房付けたまま寝てたら、椅子か何かに引火して」
わし「わかった!部屋入りますよ?」
二階「はい!」

こうして玄関を開けたのだが・・・

そこには闇が広がっていた

最初は、意味が分からなかった。昼間なのに玄関を開けたら暗黒の空間だったのだ。

わし「何これ?ブレーカーおちたの?照明は?」
二階「ついてると思います。何も見えなかったんです。出るのも必死で」

闇にギリギリまで近づいたら、天井にオレンジ色の頼りない光がぼんやり見えた。小学校などでさんざん見た、「火事になったら煙の下を移動する」が、まったくなまぬるくて正確な想定でないと思い知らされた瞬間だった。

煙の中ではない、暗黒の中を移動するのだ。

ここで初めて、火事で人がどう死ぬかリアルに想像できた。この暗黒にまかれてパニックになり、出口も分からない間に大量の煙を吸って死んでしまうのだ。

わし(なんてこった、みんなこいつにやられたのか・・・)

映画などで登場人物が次々と謎の死を遂げていき、最後にその元凶を見つけて対峙するような、そんな気持ちが沸き上がる。
そして、消せるのは自分しかいない。そしてたぶん消せる。なぜか?
長時間息を止めるのも得意だったからだ。

消火器入れから消火器を取り出し、ピンを抜く。そして最大限呼吸を整え、深く息を吸い、闇の中へ突入。入ってすぐに右の部屋の入り口をくぐると、椅子のような物が燃えているシルエットがぼんやりと浮かび上がる。
ノズルを向けて消火器を発射する。
産廃の処理や蹴ったボールがぶつかって公民館の消火器を発動させて怒られた時とは違う、出来れば避けるべき正当な理由での消火器の使用。
天敵の出現に火はあっという間に勢いをなくし、ほぼ消えてしまったが、ダッシュで外に出て呼吸を整えると、もう一本の消火器を持って再突入し、ダメ押しで火元全体に満遍なく消火剤を振りかける。

・・・火は?外に出て、消火器を置き、再び呼吸を整えて確認に入ったが、もうどこにも火は見えない。やったらしい。そして、けたたましくサイレンが鳴って、フル装備の消防隊員がぞろぞろと来た。非常に早くてとても優秀だと思った。
・・・が、言わなくてはならない事がある!

わし「すいません火は消したので水かける前に確認を!」
消防隊員A「消したんですか?あなたは」
わし「下の部屋の者だよ。消したと思うから水をかける前にちょっと見てみて!」

ここで、「放水ちょっと待って」と声がし、消防隊員が室内に入っていった。

消防隊員A「初期消火のようです」
消防隊員B(無線中)「えー、初期消火したようです。下の階の方のようで、はい」

署と無線で話しているようだ。
こうして、火は消え、放水は無くなった。私と家族の平穏はそれほど乱されずに済んだのである。
・・・が、

消防隊員A「あの、火元の住人の方知りませんか?」
わし「あれ?さっきまでここに・・・」
消防隊員C「煙を吸ってしまったとかで、自分で救急車を呼んで乗って行かれましたよ」
わし「・・・ああ、・・・そう」

ちょっとだけ微妙な空気が流れたが、あの煙では無理もないな、と思った。同時に、リアルな「煙の怖さ」を学べたのは良かった。人生で二度とあってほしくはないが、何かの時にこの暗黒の煙を知っているのといないのでは、冷静さと生存性が全く違ってくると思えたからだ。同時に、学校で学ぶ防災訓練は、煙を過小評価しているなぁ、とも思った。

消防隊員「あの、署から表彰されると思うので、差し支えなかったら住所とお名前を」

一瞬どうしようかと思ったものの、確か履歴書にも書ける事でもあるので、貰っておくことにした。表彰はその一ヶ月ほど後にされ、今でも賞状は箱入りで保管されている。私としては、平穏に過ごせたならそれで十分だったのだけれど。
のち、上の階の住人さんと物件の大家さんから、大量に贈り物をいただいた。火事になっても水をかけても大変なことになっていただろうしね。
火事自体は不幸な事だが、こんな結末の火事もある、ということで。

では、また!